「ポー君の旅日記」 ☆ リゾートとカジノ・エストリル ☆ 〔 文・杉澤理史 〕
2004年5月2日(日)。日曜日は相棒の好きな日であった。
美術館など入館料が無料のところが多いからだ。(午前中だけ無料のとこ
ろもあるから下調べが必要)
今朝もしっかりモーニングを食べた相棒は意気揚揚とご出陣だった。
ジェロニモス修道院も、国立考古学博物館も、国立古美術館も午後2時ま
では無料と下調べはついていた。
宿から石畳を30秒も下ればロシオ広場。広い空は今日も抜けるほどの青空だった。
朝8時半、リスボンのホテルを出た。
ロシオ広場を横切るとコメルシオ広場に出る。
ここに黄色い四角の小屋があり、壁に〔Carris〕と書いてある。
バスや路面電車などのキップが買えるところだ。相棒はこの場所を覚えて
いた。方向音痴のポーは忘れていた。
《賢い犬》がいると安心だった。相棒はバス・路面電車・ケーブルカーが
1日何回でも乗れるチケットを買った。
『一日券が一人3.35ユーロ(436円)だって!去年は2.35ユー
ロだったのに!』と頬を膨らませる。だが、ポーは覚えていない。
まず、ベレン地区にあるジェロニモス修道院に行くため、15番の路面電
車に乗った。
ここで、ポルトガルに来てから4年目、初めての事件に遭遇した。
詳細は被害者の相棒に、語ってもらおう。
「けいの事件簿・・・」
あの時ですか。ああ、悔しい! 私は、スリにやられてしまったんです。
路面電車は前の入り口で乗り、後ろから下車するんですが、日曜日という
こともあって乗り口は混雑していました。乗車券を刻印機に通さないと乗れ
ないんです。
その機械に券を通した時、肩に下げていたバックが一寸軽くなったように
思ったんです。瞬時、バックのチャックが開いているのに気が着き、やばい
と、バックから伸びている紐を思いっきりたぐりよせました。
後ろの中年男の陰から財布が飛び出して来ました。バックと財布は紐でつ
なげていたんです。初めての体験で、その時は声も出ませんでした。
もしかしたら! もしかしていました! 財布の中を確かめると、万がい
ちのことを考え、見せ金の5ユーロ札を入れておいたのですが、それはきれ
いに無くなっていました。更にチャックが付いた方を恐る恐る開けて見たら
こちらの札は無事でした。気がつくのが早かったのと、財布とバックを紐で
結び付けていたから助かったんです。財布だけだったら完全にやられていま
した。
治安がいいというポルトガルでも都会は用心が必要ですね。集団スリには
ご用心、ご用心! 苦やじーっ!
15番の路面電車に乗り25分もしないうちに目の前にあの懐かしい白い
建物が迫る。路面電車を降りた目の前が、世界遺産のジェロニモス修道院。
16世紀初めの建造物で、大航海時代の繁栄と栄光を伝えた修道院だ。
入館料3ユーロ(390円)無料の日曜日。路面電車で乗りつける人や観
光バスで運ばれた観光客で入り口は人の群れであった。
一緒に入館時刻まで並び、どっと入館しても意味が無い。路面電車を降り
た右手が修道院で、左手がテージョ川前に広がるグリーンベルトの広場。
その広場で行われている野外市場が見えた。
入館時間差を市場見学に当てた。
骨董品を売る露天商が100店ほど並んでいた。絵画、古本、時計、飾り
物、コイン、ランプ、人形、がらくた物などだった。サンタ・クララ広場の
〈泥棒市〉とは雰囲気が違う。客筋なのか、歴史なのか、環境なのか。市に
重みが無い。骨董品の価値観ではない。写真的に見て、生活の香りが欲しか
った露天市場であった。30分ほど楽しみ、修道院に戻った。
「けいの豆日記ノート」
市場は、人がたくさんいるから、好きだ。
ジェロニモス修道院の前の広場で、露天市場がでているとは知らなかった。
日曜日だし、観光客めあてなんじゃないかと思う。
お土産っぽいものが多いし、高いような気がする。
日本の100円均一の店の商品をここに持ってきたら、売れるんじゃないかと思う。
5倍くらいの値段でね。
荷物になるから、実際は、ムリだけどね。
あの満員の人々が修道院に飲み込まれていたため、軽やかに入館できた。
ヴィスコ・ダ・ガマ(インド航路の発見者)の棺を探す。3年前に来た時
は見損なった棺があった。人目を引いているのに、見落としていた。こんな
に目立つのに、あの時は何に目が行っていたのか不思議だ。
修道院の中に、中庭を囲む回廊がありそれに目が行ってしまった。回廊に
はアーチが並び優美で繊細な彫刻がほどこされていた。マヌエル様式の最高
傑作だと後で知った。この回廊をぐるぐる回って、1時間も堪能してしまっ
た。
修道院の西棟に国立考古学博物館がある。ポルトガルで発掘された古代か
らローマ時代の陶器や宝石、武器などが展示されていた。展示方法がいい。
広い空間にゆったり展示され、植民地だったブラジルをはじめ数々の国の
ものもあり大航海時代のポルトガルが世界に向かっていかに躍動していたか
が理解できた。
国立古美術館はポルトガルを代表する美術館。展示が見やすい。
特に2階に展示されている狩野派が描いたという南蛮屏風絵からは、日本が
見えてくる。長崎の町を歩くポルトガル人を描いた屏風絵は圧巻だった。世
界を制覇する当時のポルトガルの勢いを感じる。1・2・3階と見て回って
2時間が過ぎていた。一日いてもあきない美術館だ。
「けいの豆日記ノート」
日曜日の午前中は、入場料無料という施設がよくある。
少しでも節約したければ、それを狙うしかない。
なんてケチなんだろうと思うけど、チリも積もれば・・・である。
3ヶ所無料の場所にいったので、ランチが2回は食べれるよ。
ジェロニモス修道院は、以前にもきたことがある。
はじめて、ポルトガルを訪れたときだ。
世界遺産の建物なので、絶対に観光コースには入っている。
世界遺産だけあって、すごいと思う。
お金と時間と労力(汗と涙)をかけて造ったのだろうな。
個人的には、〔バターリャ〕の勝利のマリア修道院のほうが好きだが。
外に出ると、鼓笛の音が流れてきた。音に向かって相棒は走り出していた。
被写体には敏速であった。50mも走ったか。騎士姿70人ほどのパレード
だった。盛り上がりは騎士団の馬上行進だ。迫力万点で勇壮華美。200m
ほど路面電車の石畳を封鎖しての行進。石畳にひずめの音が響き中世の騎士
団を彷彿させてくれた。30分ほどのショーを満喫した。
『ディズニ−ランド気分だよ。なんか得した気分だね』ご機嫌な相棒がいた。
「けいの豆日記ノート」
音が聞こえてきた。近くで何かイベントがやっているに違いない。
「急げ〜 」こういうときだけ、走れるのが不思議だ。
人がたくさん集まっていた。
パレードが行われるらしい。
騎兵隊の行進だ。たくさんの装飾された馬がいた。
馬に乗りながらの楽器演奏は、むずかしいに違いない。
訓練された馬たちは、きちんと行進している。
騎兵隊なんて、写真でしか見たことがなかった。
パレードのこと、ガイド本にも書いてなかった。
書いてあったら、もっと、早くに見に来ていただろうと思う。
こんなすてきなパレードもこと書いておいてほしいなあ。
15番の路面電車に乗って終点まで行ってみた。
〔アルジェス〕という小さな町が終点だった。出会ったのは公園のおじさん
軍団だった。テーブルを並べトランプカードに興じていた。これが毎日の日
課なんだろうか。ポルトガルのおばさんたちの働いている姿はよく目にする
のにと思う。
一日券を使ってリスボンに帰ろうと路面電車の発着場に戻ったとき相棒が
『この先の〔エストリル〕に行こうよ』という。目の前にカスカイス線の電
車が走っていた。電車賃1.1ユーロ(143円)。5分もかからなかった。
駅舎を出ると広場がありその奥に大きな建物が見える。
〔CASINO ESTORIL〕と大きな赤い文字で書いてある。
1950年以来のカジノ場であった。
線路の下に地下道があり、そこを抜けると目の前に大西洋が飛び込んでき
た。タマリス海岸のビーチであった。エストリルは避暑地であり別荘地だと
知った。5月初旬だというのにビーチは海水着の人であふれていた。
暑い。サングラスが欲しいくらいの天気だ。5ユーロのサングラスが売っ
ていたが買うと荷になるのでやめる。トイレを借りてくる、と海岸沿いに並
ぶ店に入っていった相棒がアイスをなめながら戻ってきた。
『安かったよ、1ユーロだもん』リスボンの泥棒市同様、ここでもアイスはひとつであった。
「けいの豆日記ノート」
エストリルは、ポルトガルで1番大きなカジノがあるリゾート地だ。
お金持ちの町なんだろう。
カジノもリゾートも無縁なので、わざわざ行くところではないかなと思っていた。
でも、近くまできたので、寄ることにした。
どんな町でも行って見ないとね。
天気のよい暑い日だったが、長袖を来ていた。
なのに、海岸では、水着でヒナタボッコする人ばかりだった。
太陽の好きなヨーロッパの人々は、陽が出るとすぐに薄着になる。
冬であってもそうだ。
皮のコートの下には、タンクトップだったりする。
以前、ポルトガルの南にある〔ラーゴス〕にいったときも2月だというのに、海に入る人がいた。
カフェでは、夏の格好でお茶をしていた。
周りを気にせずに、自分の感じる格好をすることはいいことなのかもしれない。
日本人は、他人の目を気にしすぎだと思う。
なんでも同じが好きだから。
エストリルから電車で直接リスボンまで帰っても良かったが、相棒は運賃
がもったいないと言いアルジェスで降り、一日券を使って路面電車でリスボ
ンに帰った。30分で帰れるところを1時間もかかった。そんな旅が心地よ
い。ロシオ広場の広い広い空は、白っぽい青色が広がる夕方の6時であった。
宿の隣にあるスーパーで買い物をする。
白ワイン1ビン1.99、シーチキン1缶0.5、レタス1個0.27、
いちご10ケ1.18、きゅうり1本0.21、トマト大1個0.17、
エッグタルト3ケ1.11、オレンジ2個0.68、いちごヨーグルト1個
0.28、ブルベリーヨーグルト1個0.28、計6.67ユーロ(867円)
だった。今夜の夕食は豪華であった。
万歩計の20773歩を0に戻した。
*「地球の歩き方」参照*
終わりまで、旅日記を読んでくださり、ありがとうございます。
次回をお楽しみに・・・・・・・2007年8月掲載
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